水になるブログ

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香港大手不動産デベロッパーの憂鬱(5) 量的充足

 2019年に香港で起こった、かつてないほどのスケールのデモ活動の背景には住宅問題に対する不満があったと聞きます。そこで香港や北京の政府当局は問題の矛先を不動産デベロッパーに向けている、というわけです。

 今年3月には韓正副首相(今話題になっている女子テニスプレイヤーに告発された張高麗の後任)、その後には香港マカオ事務弁公室主任の夏宝龍(2020年にアメリカ財務省から米国内資産凍結などの制裁対象に指定された11人のひとり)がそれぞれ香港を訪れ、現地政府に住宅問題の解決を指示し、目標設定をしました。

 香港特別行政区の行政長官選挙は中国当局が認める立候補者に対して事実上親中団体のみに投票権が与えられており、不動産デベロッパーもここに含まれています。中国政府は、香港に対してこのデベロッパーの投票権をの一部を他の小企業や、本土の企業に移譲するように指示しました。彼らの政治に対する影響力が殺がれることになります。

 HendersonlandとSun Hung Kaiは少なくとも20万平米の土地を寄付しました。New Worldは300戸の住宅を市場価格の半分の価格で提供する計画を発表しました。これは政府が提供する公共住宅を民間不動産デベロッパーが手がける初めてのケースとなります。

 こうした動きは、中央政府から目をつけられた不動産デベロッパーがご機嫌とりをするためのポーズであって、実質的な住宅問題解決にはほど遠いと言えます。実質的な解決を目指すのは新界の「北部開発計画」です。この計画で、キャリー・ラム行政長官は90万戸に相当する住宅供給を盛り込んでいます。この地域には大手不動産デベロッパーもすでに900万平米の土地を保有しており、彼らにとってさらに高いリターンを得られるよいチャンスになるかもしれません。

 しかし、20年の計画で90万戸を供給するなら年平均4.5万戸の供給量になり、現状の2倍以上の量をこの北部だけで供給し続けることになります。販売価格も売り手市場の価格をつけることはできないでしょう。この住宅供給計画のうち不動産デベロッパーが直接開発に携わる割合や公共住宅として提供する割合などの内容は現時点ではわかりませんが、他の地域への波及効果もあり、収益性低下の影響を受けることになると思います。

 四大大手の中でもSun Hung Kaiのように中央政府に積極的に追随する姿勢を隠さないデベロッパーもいれば李嘉誠のCKのように静かにリバランスするデベロッパーもあり、10年後、20年後の姿が楽しみではあります。

 北部計画自体は本土との一体化、人的交流の促進という点で香港の人々にすべからく歓迎されるものではなく、センシティブな負の側面も大きいと想像しています。ただどちらにせよ、香港で生きることを選択した人にとって住宅や生活の環境がよりよいものになることを願って止みません。そのためには再分配機能が働くことが必要であり、モノポリーゲームが終焉しなければなりません。住宅の供給、量的な充足というドライバーの役割として北部開発計画に期待しています。

(終わり)

Be water, my friend.