中国で新たに導入される不動産税はいくつかの大都市で5年の試行期間を経て全国に展開される、となっており詳細が決まって行くにはまだ時間がかかります。しかしすでに将来の課税負担に対する懸念から不動産価格が鎮静化されるという効果(?)が実際に出ています。
不動産税導入の背景は習近平の掲げる新たなスローガン「共同富裕」です。「共同富裕」は邓小平が経済発展に大きく舵を切った「先富論」が生み出した格差、つまり「先に富めるものが豊かになり、後から・・・」のはずが、現実には富めるものはどんどん先に行ってしまい、その後がまったく追いつかない現状を是正しようというコンセプトだと思います。(少なくとも表向き)
不動産税は富の配分を目的とした方法論で、富裕層は戦々恐々とするはずです。しかし、この国の富裕層が誰かといえば、多くは党の内部にいるはずで、ここで大きくねじれが発生することが予想されます。
そもそも課税を逃れるといういことのほか、課税対象をどのように線引きするかによってもこの目的に対する効果は変わってきます。
ここでSCMPが取り上げられている北京で働くプログラマー、42歳の例です。
- よりよい世話を施せるよう両親を田舎から北京に連れ出した
- 自分の家族と両親用に二軒の住宅を購入し、毎月25,000元(約45万円)のローンを支払っている
- 両親名義で住宅を登記することができないので、自身の名義で二軒の住宅を所有している
- 昼夜を問わず働きづめた結果、医師から心臓が70歳の老人なみに機能が低下していると診断された
中国が抱える大きな課題として不動産、固定資本投資による経済発展が曲がり角を迎え、消費による経済発展に転換しなければならない構造問題があります。そのためには中産階級の層を厚くする必要がありますが、今回のような課税制度について大都市に住む中産階級の人々は彼らが最大の犠牲者になると思っています。権力を持つ、あるいは権力にアクセスできる富豪たちは逃れる術をもっているからです。
いずれにせよ今後5年(中国の時間軸からするとずいぶん時間をかけるな、と思うのですが)の試行期間でどのような事例が起こり、どのような試行錯誤が行われるのか注目していきたいと思います。
その他記事でとりあげている事実等
- 2019年の中国人民銀行が3万世帯を対象に調査した結果によると、70%の資産が中産階級を構成する都市部の家計によって保有されている
- また58%の家計が最低ひとつの住宅を所有し、31%が二つ、10.5%は三つ以上を所有している
- 中国の人口14億人のうち、個人所得税を払っているのは6%以下で、本来なら45%におよぶはずだという
- 個人所得税の納税者は主に中産階級で、毎月源泉徴収される
- 地方政府は財源を土地売却代金に頼っており、ここ数十年不動産価格が上昇を続けた要因である
- 昨年度の地方政府の土地売却から得た歳入は8.4兆元に上る(中国のGDPに対して8%)
- 地方政府は不動産税によって不動産取引が減少し、歳入が減った分を不動産税によって補えるとは思っていない(従って強い抵抗がある)
Be water, my friend.